「エスプレッソ用のコーヒー豆」とは、かつての日本ではイタリアンローストを指しました。イタリアンローストは、もっとも焙煎度が高い状態の豆で、ほぼ真っ黒の豆の表面にオイルが浮いています。このため、酸味はなく、非常に苦いことが特徴です。

時々、外人さんのお客さんから、「日本はいい国だし、とっても大好きなんだけど、なんでエスプレッソはおいしくないの?母国ではほぼ毎日飲んでたから、とてもつらい。」
といった愚痴を聞きました。
最近はエスプレッソのおいしいお店が増えてきたものの、やはりまだ「ただの苦いコーヒー」という感じのお店の方が圧倒的に多いように思います。
エスプレッソ用のコーヒー豆?
ところで、クレマについて面白い(?)実験をしました。

グラインダーのメッシュを最適値よりかなり小さくして無理やり抽出すると、コーヒーの油分が泡にならずにでてきました。カフェクオーレでは「ラー油」と呼んでいました。辛くはないです。

次にフォームドミルクを注いでみると、焦しニンニクを入れた熊本ラーメンのようになりました。
飲んでみると、苦味の中に強烈に感じられるエグ味とコゲ臭、後味に残る靴下の香り。びっくりするほどおいしくないです。同じ豆とは思えません。

逆にメッシュを最適値より大きくすると、洗剤の泡のような光沢のないざらざらしたクレマになります。また、コシがなくなり、すぐに消えるようになります。エスプレッソも全体的に味が薄く、酸味が強調されます。
こんな実験も行ってみました。
ショットは抽出が進むにつれてコクや甘みが減少し、薄くて雑味が増えていくと言われています。そのため、量は少なくなりますが、抽出を途中で止めるリストレットはコクや甘みに優れているのです。

では、コクや甘みの減少はどのようにおこるのでしょうか?参考となる簡単な実験をしてみました(右図)。1ショットを5段階の抽出量に分け、それぞれの比重を計るというものです。ショットはシングル、豆はなぜかロブスタ100%です(笑)。

結果、比重は2次曲線的に減少するようです。もっと直線に近い形で減少するかと思ってましたが、比較的早い段階でコーヒーの成分は抽出されるようです。抽出量の判断が大切ですね。

もっとも、おいしさと比重が完全に一致するわけではなく、コーヒー豆の種類やメッシュ、タンピングの強さによっても、曲線の形状は変わると思いますので、あくまで参考としてですが。それぞれのバリスタの特徴がでそうですね。

※実験では糖度計を用いています。ただ、エスプレッソには糖分がほとんど含まれていないので、得られた「みかけの糖度」を「比重」に換算しました。
エスプレッソは、表面に茶〜赤茶色のクレマと呼ばれるなめらかな泡の層があることが大きな特徴です。
ドリップコーヒーでは油分の多くをフィルターとともに捨ててしまいますが、エスプレッソはコーヒー豆を高温(90℃前後)・高圧(9気圧前後)で抽出することで、油分などを泡の層にし、丸ごと楽しむことができるのです。
ところが、このことは逆に品質が少しでも悪ければ渋み・エグ味も丸ごと(!)出てきてしまうことを意味します。

よって、バリスタは豆の品質・焙煎具合・鮮度などに細心の注意を払いながら、コーヒー豆をあますことなく楽しむことができるよう心がけています。

クオーレの豆は、シティートースト〜フルシティーローストの中間的な焙煎です。エスプレッソ単体で飲むには酸味が強すぎると言われていましたが、お砂糖を加えて飲んだときの甘酸っぱさやさわやかな香りが大好きです。北イタリア系(アラビカ種100%でフルシティーロースト程度)のエスプレッソが好きな外人さんにも好評で、リピーターになっていただきました。南イタリア系(ロブスタ種がブレンドでフレンチロースト〜イタリアンロースト程度)のドロッとしたエスプレッソが好きなお客さんには、「酸味強すぎだけど、ものはいい」と、なんとか許してもらってました。

また、カフェラテやカプチーノのようなミルクと合わせる場合は、この酸味がいい仕事をしてくれます。もともとミルクは酸味との相性がよいので、酸味のあるエスプレッソはミルクとのとてもよく合います。苦味の強すぎるエスプレッソを使ったカフェラテは、香りもなく、焦げ臭さと乳臭さが喧嘩しちゃってるように感じます。もっとも、その方がコーヒー感があっていいという評価もあります。こればっかりは嗜好の問題なので、良し悪しを決めることはできませんね。

では、一種類の豆しかないカフェクオーレで、コーヒー感を求められたらどうするか??

ひとつは、ラテアートのデザインを変える方法です。口当たりをよくするために、クレマリングをつくらないように苦労してラテアートをしていましたが、あえてクレマリングを作るようにすると、一口目にどんとエスプレッソが入ってくるので、コーヒー感を得ることができます。

もうひとつは、バスケットに入れる粉の量を17g→18gにすることです。これによって驚くほど味が変わり、全体的に重厚感のあるショットになります。エスプレッソ単体で飲む場合も、この方が喜ばれることが多かったように思います(外人さんには濃すぎるという評価でしたが)。

他には、カップを変えてミルクの分量を減らすのも手ですね(7oz→6oz)。お客さんが了承すればですが。


また、どこでもそうかもしれませんが、「どの豆をブレンドするか?」は難しい問題です。通常、豆のキャラクターはカッピングという手法で評価しますが、エスプレッソとは抽出の温度や方法が全くことなるため、評価手法としては不完全と思われます。ところが、エスプレッソは、マシンの種類や粉の量、タンピング圧、メッシュ・・et cたくさんのパラメータがあるので、理想的な形で評価することは困難です。
そこで、エスプレッソ用のコーヒー豆の評価は、客観的な評価手法ではなく、同じ機械で同じバリスタが一つずつエスプレッソを抽出し、試飲して評価する方法が一番適切なのではと考えています。クオーレの豆は半年ほどあれやこれやかかりました。特に、エスプレッソ単体というよりは、ラテにしたときの一体感を重視したため、何百杯ものカフェラテを作り続け、太りました(笑)おかげで、ミルクと合わせる時のキーは「酸味と香り
だ」ということに気づくことができたのですが。

もう一つ重要なものはエイジングです。かつて、オーストラリアのバリスタが遊びに来たときに真っ先に聞かれたのは「焙煎から何日目?」でした。僕は香りがよい3-7日が好きなんですが、彼は7-10日くらいが落ち着いていて好きと言ってました。オーストラリアのバリスタトレーニングでは、日単位の変化を重点的に教えるとのことでしたが、日本ではあまり気にしていないところが多いですね。数ヶ月も経った豆はたいてい倉庫のような臭いがします。有名な豆でも、これじゃあ・・・ということが多々ありました。もちろん、空輸して2週間以内に使い切るといった厳しい管理をしているところもあります。大事なポイントです。賞味期限しか記載されていない豆は論外です。賞味期限は自分で設定するので、下手すると一年なんてこともあります。


とても長くなりましたが、結論として、「エスプレッソ用のコーヒー豆」は個々の好みで探し当てるしかないということになります。宝探しですね。当店でも「エスプレッソ用のコーヒー豆」として販売してますが、あくまでもこれは「クオーレの提案するエスプレッソ用のコーヒー豆」ということになります。ちなみに、私はマンデリンが好きなので、全てのブレンドに加えています。スペシャリティにはこだわらず、安くておいしいものがいいですね。
Virtual Caffe of Caffe Latte & Cappuccio